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第 5 回 渡辺 千賀 さん


日本を飛び出してみよう!

その他の英語仕事人
渡辺 千賀さんインタビュー

渡辺千賀さんについて


シリコンバレー のコンサルティング会社 Blueshift Global Partners の社長として、技術関連事業での日米企業間アライアンスと先端技術に関する戦略立案を行う。東京大学工学部都市工学科を卒業。三菱商事に入社。スタンフォード大学にて 経営学修士 (MBA) を取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ネオテニーを経て独立。2000 年より シリコンバレー に移住。NPO 法人 Japanese Technology Professionals Association の代表として シリコンバレー の日本人プロフェッショナルを支援。2006 年 12 月に シリコンバレー の人々の働き方を紹介する著書「ヒューマン 2.0 ― web 新時代の働き方 (かもしれない)」を刊行。ブログ "On Off and Beyond"を通じて シリコンバレー での暮らしを発信。

(敬称略)
大塚「本日は大変お忙しい中、インタビューをお引き受けいただき、ありがとうございます。」
渡辺「こちらこそよろしくお願いいたします。」
大塚「『英語仕事人に聞く』のインタビューは渡辺さんで 5 人目となりますが、過去にインタビューさせていただきました方々は例外なく世界における日本のプレゼンスが年々なくなってきていると心配されていました。渡辺さんは 2000 年から アメリカシリコンバレー に住んでいらっしゃいますが、外から見て現在の日本はどのように写りますか?」
渡辺「私は年に 3 回は日本に行きますが、先月日本を訪れ、強く感じたのが海外旅行を除き国際的なことに興味がほとんどなくなり、日本は縮小していく国として進んで行こうと肝が据わったというか割り切りみたいなものが芽生えたように感じられました。」
大塚「どのようなところを見てそのように感じられたのですか?」
渡辺「総理大臣はものを決められませんし、日銀総裁が不在でも国が何の変化もなくまわっていきます。日本企業は日本の中だけでありがたがられるものばかり作っています。もちろん外国に出て行きたい会社は沢山ありますがその理由の大部分は『世界一になりたいから』というものではなく、国内では成長しないから『しかたなく』という後ろめたいものに感じます。」
大塚「私が 2002 年に ビジネススクール から帰ってきて特に感じておりますのが、東京には負のエネルギーが充満しているといいますか、何だか常に全力で走っていないと取り残される脅迫観念みたいな空気が充満しているということです。」
渡辺「それは私も感じます。特にここ 5 年の間です。私はバブル時代に大学を卒業しましたが 90 年代前半までは日本は元気でした。特に当時の 40 代、50 代は生き生きと仕事をしていました。バブル崩壊後も一度景気の底が見えれば何とかなるという空気があり、小泉改革で底が見えてからは一瞬、頑張ろうとポジティブな雰囲気になったような気がします。しかし、最近は成長しない国の重みがずっしりとのしかかってきた。そして成長しない社会の生き方に日本人が適用してしまったのが現状の日本のような気がします。」
大塚「成長しない社会とは?」
渡辺「パイの奪い合いが中心に行われる社会です。大部分の人が現在の自分の収入がこれから伸びていくと思いません。するとどうやって現状の自分の生活を守っていくかを考え出します。」
大塚「ネガティブな発想ですね。その上会社が突然倒産または外資系企業に買収されたりすることだってあります。ますます重い気分になってしまうことも頷けます。」
渡辺「どんなに会社を心から愛していても会社が 5 年後、10 年後そのまま残っているかどうかは分かりません。例え会社が存続しても部門ごと突然売られてしまったり子会社化されたりする可能性が大いにあります。自己防衛として専門的なスキルを持っていることがますます重要となってきます。」
大塚「専門的なスキルを持つ大切さにつきましては前回インタビューをしました 石倉先生 も仰っていました。でも『専門的なスキル』と言われてもそれがどういったスキルなのか分からない人が多いと思います。渡辺さんの考える、『専門的なスキル』の定義を教えてください。」
渡辺「私の専門性の定義は非常に簡単で、その場で周りにありがたがられるスキルをもっているかということ、かつそのスキルが一つの場所ではなく、複数の場所で求められているということです。」
大塚「自分が専門的なスキルがあるかどうか、確かめる方法はありますか?」
渡辺「1 年に一度でも 3 年に一度でも構いませんので転職活動をされてみるのがよいと思います。もちろん実際に転職する必要はありません。それで職が見つからなければ専門性がないと考えて間違いないと思います。」
大塚「厳しい世界ですね。」
渡辺「そう思います。しかし、専門的なスキルというと大変レベルの高いスキルを思い浮かべがちですが、先程説明しました、『その場で周りにありがたがられるスキルであり、一つの場所ではなく複数の場所で求められている』という条件に当てはまるものであればなんでもいいのです。」
大塚「例えばどういうのがありますか?」
渡辺「例えば シリコンバレー には Executive Assistant という職種があります。これは何かといいますと役員秘書のプロフェッショナルのことです。プロフェッショナルということだけあり、何しろネットワークがすごい。例えばあるベンチャー企業がベンチャーキャピタルを探しているとその社長秘書が『私、あのベンチャーキャピタルの秘書を知っている』という話になり、実際に出資に結びついたりします。」
大塚「それはすごい! そう考えると専門的なスキルと同じくらい持っているネットワークも大切ですね。」
渡辺「そうです。人の繋がりを増やしておくと、思いがけない人から仕事の誘いがかかってきたりします。よいネットワークを作るコツは、薄い付き合いとギブ・アンド・テイクだと思います。」
大塚「ギブ・アンド・テイクは当然だとして、何故薄い付き合いなのですか?」
渡辺「同じ人とばかり会っていますとネットワークが重なってしまい、広がりがなく、いざというときにあまり役立ちません。」
大塚「納得です。しかし、最近人付き合いが社内と自宅で完結している人が増えているような気がします。残業や社内の付き合いを振り切ってまで自分の時間を作ろうとするのは『なんだあいつ!』なんて嫌われてしまいそうです (笑)。」
渡辺「そこなんですよ。人に嫌われることを恐れると人生無駄な時間を多く過ごしてしまうような気がします。もちろんあえて自分から嫌われる必要はないと思いますが、『嫌われてもいい!』と思うと逆に嫌われない気がしません?」
大塚「なるほど (笑)! 確かに言われてみるとそう思います。」
渡辺「嫌われたくないと思うと色気が出てしまいます。スタンフォード大学時代に『上司が優秀と思う部下はどんな部下か』という研究を行った人がいまして、『従順でない部下を上司は重んじる』という結論でした。いつも従順ですと『こいつはかわいいやつだ』と思うが出来る部下とは思わない。時々反抗すると『おっ、こいつやるな!』と思われる。」
大塚「そうでしょうね。」
渡辺「でもこれは アメリカ だけではなく日本にも当てはまると思います。何でも『ハイハイ』という人は便利がられても評価はされない。普段『ハイハイ』と言っていても時には『違う!』と言える人の方が評価されると。私は 10 年ちょっと日本で働いていましたが貢献はしなければならないと思っていましたが好かれようとはしませんでした。『好かれる』と『ありがたがられる』の線引きは大切だと思います。」
大塚「『大企業に入ればその会社でのみ通用するスキルしか身につかないが、終身雇用で倒産の心配がない。付き合いも社内人脈の方が将来を考えると大事』という従来の価値観が大きく崩れてきた。山一證券の倒産から 10 年しか経っていないのに時代の流れはドラスティックに変わってきています。」
渡辺「そうですね。さらに時代の流れとして過去 15 年の間で英語が世界の公用語になったということです。どこにいっても全ての場所でないにしろ英語が通じる場所が必ずあります。言語が統一されますと考え方も統一されてきます。つまりグローバル化がどんどん進んできます。」
大塚「その中で日本は取り残されています。」
渡辺「グローバル化がどんどん進み世界が一つの方向に進んでいく中で日本は全く違う方向に進んでいる気がします。それもより洗練されて。。」
大塚「より洗練?」
渡辺「日本企業は日本の中だけでありがたがられるものをどんどん作っています。外から見るとまるで日本は SF の国のように感じられます。Suica とかあちこちで使えて (笑)。。。何だか日本が進化すればするほど世界からどんどん遠のいていっているように感じます。」
大塚「それは本当に感じますね。縮小していく国がそれでいいのでしょうか?」
渡辺「それはそれでいいと思います。かつて一世を風靡しましたイタリアやスペインも力を失いましたが、かといって悪い国かと言われれば全くそんなことはありません。」
大塚「そうですね。」
渡辺「しかし、そういう日本が合わないと思う人は英語さえ出来れば海外で働くチャンスはいくらでもあります。」
大塚「そう考えるといい時代になりました。しかし日本の英語教育はひどい。大学を含めると 10 年も英語を勉強させられてきているにもかかわらず、大部分が十分な英語力を身につけていません。」
渡辺「私はこれを日本政府の陰謀だと思っています (笑)。」
大塚「陰謀と言いますと?」
渡辺「英語が出来るようになりますと優秀な日本人がどんどん海外へ出てしまうのであえて英語力を身につけさせないようにしていると (笑)。」
大塚「なるほど! それは面白いですね。でも渡辺さんは世界に出て行かれた。渡辺さんの本を読んでいますと本当に毎日が楽しそうですね。特に最近日本ではうつ病や精神的に病んでしまう人が増えています。優秀で責任感が強い人ほど病気にかかってしまうと聞きます。これは見ていて残念でなりません。『何も狭い日本で働く必要はない。本気になればどこでも働くことが出来ますよ!』という大きなメッセージを渡辺さんの本 (ヒューマン 2.0 ― web 新時代の働き方 (かもしれない)) から感じます。」
渡辺「海外に出て働くことで日本に戻ってきてマイナスになることはなにもありません。一度海外に出てみると今まで自分が常識であると思っていたことが全く違うことがわかります。窮屈と感じていた価値観やしがらみを『崩してもいいんだ!』という発見が多く、自由になった感じになります。私はブログ (Chika Watanabe / 渡辺千賀: テクノロジー・ベンチャー・シリコンバレーの暮らし) を通じてこれからも シリコンバレー より情報をどんどん発信し、海外に出て活躍したい人のロールモデルになっていきたいと思っています。」
大塚「素晴らしいですね。本日はありがとうございました。」


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