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第 4 回 石倉 洋子 さん


プロフェッショナルという生き方

その他の英語仕事人
石倉 洋子さんインタビュー

石倉洋子先生について


上智大学外国語学部英語学科卒業。フリーの通訳などを経て、80 年バージニア大学大学院にて経営学修士 (MBA)、85 年ハーバード・ビジネス・スクールにて経営学博士 (DBA) 取得。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて日本の大企業の戦略・組織・企業改革のコンサルティングに従事。92 年青山学院大学国際政治経済学部教授。2000 年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。主な著書:「世界級キャリアのつくり方」(共著、東洋経済新報社)、「組織のコアスキル」(NTT 出版)、「異質のマネジメント」(共著、ダイヤモンド社)。

(敬称略)
大塚「今回、『石倉先生をインタビューしたい!』と思った一番の理由は先生の書いた『世界級キャリアのつくり方』を読んで大変刺激を受けたからでした。本のタイトルはちょっと近づき難いものですが、この本は一部のプロフェッショナルに対するものではなく、広く一般向けのキャリア形成の指南書という印象を持ちました。はじめに先生はどうしてこの本を書こうと思われたのですか?」
石倉「私は数年前から企業や都市、それに国の競争力について研究しているのですが、この分野でクラスター (これだけ ICT - 情報通信技術 - が進んでも、ある分野において優れた企業は、シリコンバレーのハイテク企業のように、物理的に近い所に集積している) という概念を提唱しているハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授 (競争戦略論を確立した世界的に有名な教授) が、5 年前に ボストン で開いたワークショップに出席しました。世界から数十人が参加していたのですが、そこで、当時、日本経済の停滞に比べ、急速に成長していた他のアジアの人々に、日本が全く相手にされず、日本への関心もほとんどないことを実感しました。世界、特にアジアでは、日本の存在感がないことを知って、愕然としたこの経験は本当にショックでした。」
大塚「アジア人が日本へ関心がないというのは驚きです。」
石倉「そうなのです。そこで、日本で行われているクラスター計画や、一般にはそれほど知られていないけれども優れた業績を残している日本企業を、世界に知らせたいと思っていました。ちょうどその頃、京都で開かれた産学連携会議でたまたま、とてもインパクトのあるスピーチをした黒川清さんという世界的に有名な内科医に出会いました。黒川さんは、日本学術会議という日本の科学者の権威ある団体の会長をしていましたが、たまたま私も学術会議の新会員になったことをきっかけに、私を新しくできた国際担当の副会長に指名してくれたのです。私自身、ちょうど日本の研究を世界に知らせたいと思っていたし、黒川さんのようにダイナミックな人と一緒にプロジェクトをしたいと考えていたので、この機会を逃してはならないと思いました。」
大塚「それでこの本を黒川さんと一緒に書こうということになったのですね。」
石倉「そうです。黒川さんは、世界で非常に良く知られており、尊敬されている人だし、国際会議などで、世界における日本のプレゼンスが下がっていることを問題と思っていたようです。特に若い世代に対して、狭い日本より、広い世界に飛び出してほしいという希望を 2 人とも強く持っていたので、本の内容は二転三転しましたが、2 人の経験を伝え、若い世代向けに『プロフェッショナルになってほしい』という気持ちを示す本を二人で出そうということになりました。」
大塚「そんなに日本のプレゼンスは落ちているのですか?」
石倉「2000 年から 2 年、そして最近も 2 年続けてダボス会議 (各国の政治家や大企業のトップなどが何千人も集まり、さまざまな問題について話しあう世界でもっとも有名な世界経済会議) でモデレーター (議論の進行役) をしていますが、ここに行くと日本の存在感が年々なくなっていることをひしひしと感じます。」
大塚「ダボス会議には日本から何人位参加されているのですか?」
石倉「今年は 100 名近くいっていますが、パネリスト・スピーカー・モデレーターを実際にする人は 20 人弱と少ないです。」
大塚「20 名とは少ないですね。」
石倉「それも日本関係のセッションでパネリストをするだけでなく、世界各国の人を相手に、日本の立場や自分の意見をはっきり言える人、いろいろな分野のパネリストの意見を引き出し、建設的な議論を進めることができる人が日本人では圧倒的に少ないのです。」
大塚「それは悲しいですね。韓国人や中国人はどうですか?」
石倉「韓国人、中国人は 10 年前まではあまり存在感がなく、他の国の人々と議論がかみ合わないことが多いと思ったのですが、最近は両国とも英語に力を入れていますし、どんどん存在感を増しています。ダボス会議などの国際会議のルールを良く理解しているので、ディスカッションになっても自分の主張をはっきりと表現します。西洋人を相手に『あなたたちとは価値観ややり方が違う!』と相手にも分かりやすく説明しますから、『ああそうかな』と思われるのです。」
大塚「ダボス会議のルールってなんですか?」
石倉「建設的な議論を心がけ、個人攻撃をしないこと、質問も同じ姿勢ですることは基本ルールです。またパネリストもモデレーターも、その都度パフォーマンスがスタッフに評価されています。パネリスト・モデレーターなどをやっても、話が下手、内容がないなどパフォーマンスの悪い人は次回から声がかからなくなります。また参加しているのは、世界から集まった各分野の専門家ですから、スピーカーやパネリストでなくても、セッションで目立った質問やコメントをすると、周囲に知られるようになります。」
大塚「それぞれのパネル・セッションにどれだけ貢献できるかということがポイントなのですね。」
石倉「そうです。専門知識はもちろん必要ですが、それを相手にきちんと伝え、議論ができるコミュニケーション能力がなければ、それがいかされないのです。」
大塚「日本にもこういった能力に長けている人はいると思いますが。。。どうして韓国・中国と比べてもプレゼンスが下がってきているのですか?」
石倉「知識だけであれば日本でもすごい人がたくさんいますが、コミュニケーション能力は、経験で身につくと思います。こうした世界的な会議は、たまに、あるいは一回だけ行っても、何が何だかルールがわからないので、その機会を最大限に活用することは難しいです。少なくとも 2 回は続けていく、繰り返し積極的に参加するという意欲がないと、場慣れできず、雰囲気に圧倒されてしまいます。場数を踏めば踏むほど能力が向上する。そのプロセスで失敗することも時には必要です。」
大塚「この仕事をやっていまして一番感じるのは日本人の失敗することに対するアレルギーは相当ひどいとうことです。特に面と向かって違う意見を言われるとどうしたら良いか分からなくなります。しかし、これは今に始まった問題ではないと思います。日本ではなく世界の取り巻く環境が近年、変わってしまったのですか?」
石倉「そうです。第 2 次大戦後ゼロから世界第二位の経済大国にまで成長した原動力であった日本の教育方法が、ICT (情報通信技術) が進み、共通ルール化してきた世界、世界のスタンダードと合わなくなっているのだと思います。」
大塚「『日本の教育方法』と『世界スタンダード』の 2 点について詳しく教えてください。」
石倉「世界スタンダードというのは、各国市場が世界市場に統合され、独立したものではなくなりつつあるということです。消費者は、どこの国に住んでいても、世界から良い製品を手にいれることができますし、企業も世界各地から優れた人材やアイディアを募集し、世界市場で自社の製品やサービスを提供することができるようになっています。また情報通信技術が高度化したため、今までのように企業が、一方的に消費者に商品やサービスを提供するのではなく、消費者を商品開発に参加してもらうこともできます。顧客ニーズも多様になっています。今でも『良いものを作れば売れる』と思っている人が日本には見られますが、高度経済成長時代で売れるものが分かっている時代には正しかったこうした考え方は、通用しなくなっています。消費者のニーズも簡単にはわかりませんし、企業がそれを想像して製品を開発するよりは、顧客を巻き込んで開発したほうが良いともいえます。顧客のニーズを本当に理解していないと、自社の製品がどう顧客の役に立つかを説明することはできません。ですから、私には『良いものを作れば売れる』は『お客のニーズが分かりません』に聞こえてしまいます (笑)。」
大塚「そうですね。それに加え、外から日本を見て感じたのですが、日本市場で売れるものと世界で売れるもの、つまり日本人が求めるものと外国人が求めるものが明らかに変わってきている気がします。例えば携帯電話。先日日本に来たビジネススクール時代のクラスメートを秋葉原のヨドバシカメラに連れて行ったのですが、携帯電話コーナーをみて、腰を抜かしていました。同じ携帯電話で 20 色バリエーションがあったり、選べる携帯の種類は数え切れない位多い。欧米にはない数々の機能について解説したらすごく感心していました。技術もすごいし、おしゃれだと。『欲しい!』といっていたので毎月の支払っている携帯電話代を教えたら『そこまで払ってまで欲しくない!』といっていました (笑)。まあ当然だと思いましたけどね。」
石倉「世界市場と日本市場との乖離を最近特に感じます。『日本は技術があるから大丈夫』という人は多いですが、時代はハード (技術) よりはソフトであり、世界は単体ではなくコンセプトやシステムを求める傾向が強くなっています。技術と製品だけでは通用しない時代になってきているのです。例えば最近のヒット商品である iPod の部品の多くは日本企業が作っていますが、付加価値のほとんどは獲得できていません。これこそ「部品よりコンセプト」という時代を良くあらわしています。先日の週刊ダイヤモンドでも、技術的に優位を築いていた日本の太陽光発電があっという間にドイツにやられてしまったという記事がありました。技術があるから大丈夫と思い、普及などを考えた社会システム全体への働きかけをしない、また携帯端末のように世界から見ると特異な日本市場だけで争っているから、こうなってしまうのです。特に、これからは、バイオなどライフサイエンスと工学など異なった分野の技術の融合や組み合わせから、イノベーションが生み出される時代ですから、ある分野だけに強みを持つ、自前で何でもやろうとしてオープン・システムを採用しないというやり方には限界があると思います。」
大塚「そういう時代の中では従来の日本の教育方法は合致しないということですか?」
石倉「そうです。新しいこと、イノベーションは全て疑問を持つことから生まれます。でも日本の学校では、いまだに分からなくても質問をしてはダメという教育を行っているようです。」
大塚「これは本当に感じます。私は 4 歳から 12 歳まで アメリカ で過ごしまして現地校に通っていました。小学校 6 年生の 2 学期から日本の小学校に編入したわけですが、そこで授業中、分からないことはどんどん手をあげて聞いて完全に浮いてしまいました (笑)。」
石倉「そういう子はいじめられる。。。」
大塚「そうです。それで借りてきた猫のように大人しくなってしまう。」
石倉「そうなのです。結局、問題意識を持つことを否定する、質問を拒絶する教育をしていると、子供はいつしか疑問を持たなくなる。問題意識を持たず、常識を疑わないことになる。問題は、日本の教育で重要視してきた知識だけではほとんど価値がなくなってきてしまった。逆に今まで日本で開発してこなかった考える力、疑問を持つ姿勢が大きな価値を持つように、世界は変化してきていることです。常に疑問を持つ。疑問を持ったら相手にぶつけてみる。そこでディスカッションをして、より価値があるものを作り上げていく。こうした姿勢を持ち実行しないと、ICT がもたらす時代のすばらしい恩恵を受けられないと思います。今は、違う経験・見解を持つことが、価値を持ちます。違う分野の融合から新しいものが生まれる時代ですから。」
大塚「そのことについては『世界級のキャリアのつくり方』に書いてありましたね。」
石倉「そうです。時々、『この本では一部の人たちにプロフェッショナルになれといわれているのですか?』と聞かれます。」
大塚「はい。」
石倉「本を書いた時はそれほどはっきりしていなかったのですが、今、私が確信を持っているのは、『誰にでも良い点、セールスポイント、売り、すなわちプロになる素質はある』ということです。私が時々やるキャリア・セミナーなどの 20 代、30 代の参加者に『あなたには売りがありますか?』と聞いてみると、大体 50% が『ある』、50% が『ない』と答えてきます。『ある』と答える人は『優しい心』等自分らしいソフトのスキルがあるといい、『ない』と答える人は『学歴・経歴』等ハードのスキルがないということが多いです。」
大塚「それは面白ですね!」
石倉「どんな人でも『売り』があると思います。そしてその『売り』は、自分独自のソフト・スキルと客観的にわかるハード・スキルの組合せだと思うのです。誰でも自分にしかない組合せ・強みがあります。まずこれを探し出すことが大切ですが、これは他の人に聞いても駄目で、自分しか出来ません。しかし、強みを見つけたら、それをさらに磨き、そして生かせるような環境に触れる機会を提供することで、周囲がそれを一段高くする助けをすることはできます。たとえば、すばらしい人に会ったり、一緒に仕事をすれば、自分の強みに磨きをかけることができます。自分を向上できるような場を探し、そうした舞台に立つ。世界にそうした場所を求め、世界中の人との交わり合いを通じて成長していく。世界に出ていくと、自分の新しい強みを見つけるきっかけになることもあります。」
大塚「そうですね。そう考えると世界に出て行く意義も出てきますね。」
石倉「これは本の中で黒川清さんが書いているのですが『世界にはいろいろな山がある』ということです。日本にいると富士山が一番高い山ですが、世界にはエベレストやマッキンリー等富士山より高い山がある。世界に出ていくと、富士山だけでないことがわかる。世界のいろいろな山を知った上で、自分はどの山に登りたいのか、考える。また、どの山が良いかの判断は、高さだけではなく、風景や親しみやすさなど、国や人それぞれによって違う。だから山は高さだけで判断するものでないことを知る。『富士山以外にも山があることを知るだけでも価値がある。』ということです。」
大塚「素晴らしい例えですね。何だか世界級キャリアとかプロフェッショナルとか聞きますと、常に勝ち続けなければならないと逆に敬遠してしまいがちですが、まず自分の強みを探しそれを生かせる職種につく。そして自分の裏庭に安住しないで、違う基準・価値観に触れ、より自分の強みを磨いていく。そう考えると自分でも出来そうな気がします。」
石倉「そうです。その過程で、日本の立場、自分の世界観を世界に対してきちんと説明し、『こんな日本人がいるのか』とアピールする。多くの人のそうした活動によって、日本のプレゼンスは上がっていくと思います。」
大塚「これは我々の世代に課せられた大きな任務ですね。」
石倉「そうです! これはすばらしい生き方だと思いませんか? 実際に私の周りにいるプロフェッショナルは一人一人、皆元気で、生き生きとしていますし、いかにも刺激のある人生を送っています。」
大塚「そのように生きたいものです。本日はありがとうございました。」

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